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僕はエゴイスト



「おれにとっての優先順位ってのは」


「まずは、レディだ」


「これは譲れねぇ」


「んで次がこの両手」


「そんでもってその次が、命」


「ははっ変かい?」


「女性は優しく扱えと、叩き込まれてきたもんで」


「えっ、じゃなくて命の順位が?」


「…だってよ、料理ができなけりゃぁ、生きてても意味がないだろ」


「…え、また違う?」


「…まぁそりゃぁ他人よりも自分の命だが…」


「その他人ってやつがレディだったら、守っちまうんだよ、おれぁ」


「そう接するもんだと、育てられてきたんでね」


「あんなイカツイつらぁしてくさるくせにあのクソジジイはよ…」


「大層なフェミニストなんだよ、笑っちまうよな」


「レディファーストなんて当たり前で、女だけはどんなやつだろうが蹴ったことがねーらしくて」


「んでもって女性は働かすもんじゃねえなんつーからよ、バラティエにはただの一人もウェイトレスがいねぇんだよ」


「ったく、おかげで目の奉養は店にくる麗しのレディ達だけで…」


「そのチャンスを逃すまいとこっちは甘い言葉連発で口説きまくって……っあだだだッッ!!
ごめんごめんッッほっぺた抓んないで!!」


「……あ―なんだ。…ガキんころからそんな風に教えられてきたからおれは…」


「クソジジイ以上の女好きなフェミニストになっちまったのさ」


「…でもおれも成長してわかってきたんだが」


「ジジイは別に女好きでもフェミニストでもなかったんだよな」


「あいつぁ、男の中の男だった」


「ただそれだけ」


「子育てってのぁある意味洗脳だよ」


「おかげでおれは立派なフェミニストになっちまった。それも超がつくほどの」


「まぁこれは結果的には違う洗脳になっちまったわけだが」


「でもま、間違った解釈ではあるがこの洗脳によって、今おれは自分の命よりもその辺の女性のが大切だって思考の持ち主に育っちまったわけだ」


「でも最近このランク付けが変わりつつあんだよ…」


「不動だったはずの一位であるレディの前に、ナミさん。君が入ってきてるんだ、着実に」


「…私も女よ?」


裸んぼうのサンジ君は裸んぼうの私に腕枕をしながらベッドに横になり、時折タバコの煙を吐き出しながらポツリポツリと話した。

フィルターがジッと鳴り一段と大きく煙を吐き出せば、一瞬ちらりとこちらを見やってニッと笑う。

「世界中のレディ達でもナミさん一人には適わねぇってことさ」

おれん中でね、と満足げに灰皿にタバコを押し付け私を抱きしめた。

「あんたバカね、他人のために死ぬっての?」

クスクス笑いながらも憎まれ口を叩く。

「それがレディであれば」

サンジ君は私をいい子いい子しながら、おでこに頬ずりをして。髭がチクチクするわ。
やぁだーなんてじゃれ合ってたらなんだか愛しさがこみ上げて。
一転真剣な顔を作りサンジ君にまたがって彼の顔を両手で挟んだ。

「……私を置いて?」

サンジ君の瞳は、吸い込まれそうな、青。

「君を守れるなら本望さ」

今度は逆に頭を寄せられて、キスをひとつ。
ゴロンと転がって、さっきみたいに二人並んで寝っ転がった。

「私を一人残してでも、死ぬの?」
「ナミさんは一人じゃないよ」

あんたがいないと、一人と同じよ。

「私じゃなくて他の女のためでも死ねるんでしょ?」
「あ―なんだ…これぁおれのポリシーなんだよ」

「やっぱあんた、バカね」

ポリシーのために死ぬなんて。騎士道気取りも甚だしいわ。
…今時そんな騎士道もったやつなんて、いやしない。

「そんな風に育てられてきたもんで」

再びタバコに火をつけて、笑った。


サンジ君は、女性主義というよりも利他主義者だ。博愛、なんて言ったら大袈裟だけど。
でもそんな感じ。
恵まれない人がいたら放っておけないのよ。

だけどこいつは。
自分の命よりも私の命が大事らしい。百歩譲ってそれはいいとして、それは見ず知らずの女にも該当すると言う。
博愛主義なんておこがましい。
とんだ利己主義者よ、この男。

「エゴイストね」
「え、」
「サンジ君て」
「おれっ?」
「アルトルイズムかと思ってたけど、エゴイズムだわ」
「んなこと初めて言われたよ」
「でしょうね。あんたって典型的な自分を犠牲にするタイプだし」
「それはエゴって言わなくね?」
「対義語は時として一転するってことよ」

ちょーだい、と彼の口からタバコを奪って、枕を背もたれに体を起こす。
え~なんかショックだ~なんて、サンジ君は寝たまま私の腰に絡みついた。

「おれって自己中かい?」
「自己中心的なのとエゴは違うわ」

タバコを吸えば、口の中いっぱいにサンジ君の匂い。
私って、こんなに独占欲強かった?

「んじゃさ、ナミさんは何主義?」
「私は…資本主義?」

フフッと笑って、キスを。

すると唇を合わせたまま、指からタバコを奪われた。

「ナミさんは吸っちゃだーめ」
「んもっなんでよ」

「…ナミさんの匂いがかき消されちまう」

不意に、似たような事を思っていると嬉しいものね。
大人しくタバコを渡して、そのまま彼の胸に抱きついて。

「私この匂い、タバコの、好きよ」

それで、この匂いに包まれてる私が好き。

「ずっと、この匂いのする場所にいたいの」

だから先に、私より先に死ぬなんて

「私を置いていくなんて、ダメなんだから」

先に死ぬなんて

「後に残される者の気持ちを考えないなんて、エゴイストだわ」

吸い込まれそうな青を、じっと見つめる。

「ずっと一緒よ。死ぬときは私よりちょっと後にして」

ぐるんと、今度は君が上にきて私を見下ろした。

「それじゃあナミさん、君がエゴイストだよ」

…あら、確信犯だった?
意外と脆いのね、男のくせに。

「…一緒にってことで、手を打たねえ?」

にっこり微笑んで、今日何度目かのキスをした。

願わくば、墜つる時は君と一緒に。



2008.11.10
私、サンジの目は青くないと思ってます。(自分で書いといて)


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