あんたは病気よ。
人生そのものが、仕事になっている。いつでもどこでも人に尽くして。完全なるワーカホリック。
だけどあんたはそれが仕事とも思っていないんでしょうね。
それが病気だっての。
君はワーカホリック
サンジ君は毎日、三度の食事と3時のおやつの支度をかかさない。
この船には尋常じゃない食欲の困った船長さんがいるから、普通の食事の支度だけでも大変だというのに。この男はたかがおやつだろうと一人一人の好みを考慮しながら作るのだ。ご苦労なことである。
その上食事やティータイムの支度や片付けをしていない時間も、何かしらの仕事をしているのよ。
例えばみかん畑を困った船長さんから守ってみたり、傷んだ鍋や食器を整理したり、食材のストックをチェックしてはソロバンを弾いたり?
それなのに、私との時間も決しておろそかにしないのだ。
「あんたは病気よ」
「へ?」
よく晴れた甲板で、ここ数日でたまってしまった洗濯物をしながら。
大きなタライに二人並んでジャブジャブと、洗濯板にシャツをこすりつける。
「よくそんなに人のために尽くせるわよね」
「あ―…と…それだとなんで病気なんだい?」
「仕事病?」
「ハハッまぁ確かにそうかもな」
「サービス業が染み付きすぎてんのよ。よくやってられるわね」
「んー…おれぁ自分がしてることを『仕事』って思っちゃいねーんだけど…」
「自覚がないとこが病気だってのよ」
「まぁ~おれにとっては普通のことだしな。むしろ生きがい?」
なんて。サービスの鬼ね。こんな話をしているそばから君は
「おれのはお終いっ。ナミさんの手伝うよ」
間髪入れずに私の洗濯を手伝い始めた。本当、ご苦労なことで。
「ナミさん、洗濯物これだけ?」
「ん、そうよ?」
「下着とかねーの?」
「…生憎それは毎日洗っていますので」
ちぇーなんて、本気でしょぼくれてしまった。
バカね、下着だけで喜ぶような、そんな仲ではないというのに。
「んもっそんなのいいから早く洗ってよ」
額を小突けば、サンジ君のおでこに泡がつく。
「わっちょっとナミさん!泡!」
なんて君は慌てて額を押さえたけれど、自分のその手にも泡がついてたもんだから、益々泡だらけになってしまった。
もうそれからは泡泡合戦になって、私達はあっと言う間に泡だらけ。たかだか洗濯物だけれど意外と楽しくやっている、結構仲良しな私達。
だけどそんな楽しい一時の中でも、君にとってはこの時間までもが仕事の一貫なんじゃないか。なんて、思ってしまう。
だけどこいつはその自覚が一切ないから、またそれが厄介なのよ。
好きだーとか愛してるーとかいうセリフも、全てがサービスの内なんじゃないかしら。
私はすこぶる愛されている。
ように見せるための、その愛情表現も『仕事』なんじゃないか。なんて。
泡だらけになって一通り笑い終わり二人で柵にもたれながら、君はタバコをふかす。
「ひっでぇなーナミさん。おれの服、泡だらけ」
「ふふ、それももう洗っちゃえば?」
「んーそうすっかな。ナミさんの服だってアワアワだ」
「私も、洗うわ」
「え、脱がそうか?」
「バーカ」
クスクス笑い合って。君はゆっくりタバコの煙を吐き出す。
「たまにはさ、休んでいいのよ?」
「ん…?」
「仕事忘れて、休憩くらいしなさいよ」
あんたが『仕事』を休んだら、私は一体どうなるのかしら。
あの愛の羅列はもう聞けなくなるの?
「んーでも疲れたなんて思ったことねぇのよ、おれ」
この船乗ってからさぁーなんて、屈託もなく笑う。
嘘よ、朝は誰よりも早く起きて、夜も誰よりも遅くて。その上日中もせわしなく働いて。そんな生活で疲れないはずがない。
「感じてなくても疲労は溜まるわ。ちょっとくらい休むことも大事よ」
「でもおれ結構してるよ?休憩」
「嘘。サンジ君が休憩してるとこなんて見たことない」
「ウッソだ~、今も見てるじゃない」
「…え?」
視線を合わせて、加えていたタバコを指に取りニッと笑う。
「ナミさんと二人でいる時が、おれにとっての休憩」
そのままキスされた。
不意のキスと愛の言葉に、柄にもなく少し照れてしまう。
バカね、こんな事で照れるような、そんな仲ではないというのに。
これも仕事の一貫かもしれないけれど、ここまで徹底した職人技を見せつけられたら屈するしかない。
まぁあんたはワーカホリックだし?
人生そのものが仕事なのだ。
私を愛することが、君の人生。
そう思っていいんでしょ?
08.12.16
サンジにはワーカホリックて言葉がぴったりだな!ってお話…
13.07.01
ちょこっと修正、というか、文章けずりました。
にしても2008年て…5年も経っているね・・・。
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