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*サンジとナミが10歳くらいの頃の妄想話。


昔話をしようじゃないか



海は広くて残酷だ。

何者をも拒ばぬふりをして、あらゆる者を死へといざなう。
母なる海とはよく言ったもので、その生命の誕生の根源である事とは裏腹に、此処に命を奪われた者は数え切れない。


少女は今正に、命を奪われんとしていた。
この広い海の真ん中に漂ってもうどのくらいだろう。いや、実際は正確に覚えている。17日と半日。そして食料が尽きて丸3日。
決して遭難しているのではない。目的地である島の場所はわかっている。
そして、到着するまでの距離も時間も。

「あと3日も…もつかな」

オレンジ色の珍しい髪色の少女は宙を仰ぎため息をつく。
このまま順調に航海が進んでもあと島まで3日はかかるのだ。少女は自分の航海術の腕を呪った。正確すぎることは時に希望を削る要因となるものだ。


少女は3日前に海賊に襲われた。
ありったけの金と食料を渡すことで命だけは取り留めたのだが、このままではその命すら落としかねない。
少女は絶望の淵にいる。


何をするでもなく水平線を眺めていると、ずっと先に何かがあることを捕らえた。
目を凝らせばそれは大きな乗客船。少女は渾身の力を振り絞り舵を取り、オール
を漕ぎ、客船を目指す。
ようやく側に近づけば、それは見上げるほどの大きな船で。
ロープを船に投げ入れ自分の船を寄せると、足場を探しその客船によじ登る。
もう目の前に甲板が迫ったときに、少女の視界に写ったものは。
足だ。手すりに腰かけてブラブラとさせている、足。
少女はギクリと肩を強ばらせ、恐る恐るその足の正体を見やれば、それは自分と同じ頃であろう、金髪が眩しい少年であった。

「…やあ」
「…どうも」
「驚いたな、君何してるんだい?」
「ちょっとね、用があって海にでてたの」
「へぇ、ひとりで?」
「…えぇ」
「あれ、君の船?」
「まぁね。盗んだ物だけど」
「ほー…」
「…追い出さないの?」
「なんで?」
「だって私、侵入者よ」
「はは、そりゃコックの仕事じゃないさ。とりあえず、上がれば?」
「うん…」

少女は少年に手をとられ甲板に上がると、大樽の上に座るように促された。

「で、この船には何か用でも?」
「ちょっと、お腹がすいて」
「そいつぁちょうどいいや、おれ、コックなんだよ。何食いたい?」
「なんでも。それよりお水が飲みたい」
「あぁ、悪い。どうぞ」

少年は腰につけていた水の入った袋を渡すと、少女は勢いよくそれを飲み干す。
少年は顎に手をあて少し考える風に少女を見やった。

「…何日飲まず食わずなの?」
「3日…」
「まじ?」
「まじ」
「すぐに作ってくるよ。君はここにいて」

少年は駆け足で厨房へと消えていく。少女は安心したように目を閉じて、樽の上に寝そべった。



「おいし…」
「そ?お口に合ってなにより。あ―どれも急に胃に入っても負担が少ねぇように作ったから、安心して食ってくれ」
「ありがと」

少年は何をするでもなく海を見ていた。

「御馳走様、美味しかったわ」
「いえいえ、お粗末様」

二人で並んで樽に座り海を見る。
「…聞いてもいいかい」
「うん?」
「どうして一人きりで海に?」

「・・・・」
「・・・・」
「夢があるの」
「夢?」
「そ。村をね、買うのよ」
「村を?」
「村を。」

「そのためにね、1億ベリー、貯めるの。何が何でも」
「いっ・・・?!君が?」
「…うん」
「…さぞかし、いい村なんだろうね」

少女は何も言わずにただ静かに微笑んだ。

「あんたは?」
「ん?」
「あんたは何か夢はないの?」
「夢かぁ…」
「・・・・」

「あるよ、夢」
「どんな?」
「おれぁさ、オールブルーを見つけたいんだ」
「オールブルー?」
「そ。知ってる?」
「…世界中の海にいる全ての魚が集まる、奇跡の海…」
「あ、知ってるんだ」
「本で読んだの」
「・・・・・・笑うかい?」
「どうして?」
「今までこの話をしたやつらはみんな笑ったよ。んな海はねーってさ」

少年は樽を降りて柵にもたれ、また海を眺めた。少女もそれに続き柵にもたれる。

「あるよ」
「え?」
「あるわよ、きっと。オールブルー」

驚いて顔を見れば、少女はにっこりと笑っていた。

「私はイーストブルーをまだでたことがないけど、海はすっごく広いのよ?一生かかっても周りきれないかもしれないくらいに。そんな広い海なんだもの、どこかにきっとあるわ」

「…そうかな」
「そうよ」

少年は眉をさげて、少し泣きそうな顔で微笑み、少女を見た。真っ直ぐに。

「それでね私は、村を買ったらね、
そのひろーい海を全部周って、世界地図をかくの」
「世界地図…!」
「絶対かくわ」
「おれも見つけられるかな」
「信じていればね」
「信じてるさ」

「オールブルーを見つけたら、世界地図にかかなくちゃね」
「そうだね」


笑い合う二人の髪を潮風が揺らす。

「…どんな村なの?」
「え?」
「君が買う村は」
「…いい所よ」
「へぇ…」
「・・・・気候も、人も、みんなが暖かい村だったのに…」
「…え」
「私の故郷なの」
「・・・・」

少女の目に光るものが見えた。瞳を潤ませながらも前をしっかり見つめる少女を、少年は見つめる。
再び海に目をやって

「海は広大で果てしないけどさ」

「信じてれば、夢は叶うさ」

「君の受け売りだけど。しかもたった今のね」


少女は顔を上げ、また二人で笑い合った。



「サンジーーーー!!!!」

扉が勢いよく開き、怒鳴り声がする。少年は肩をびくつかせた。

「…私、行くわ」
「え、もう少しゆっくりしてけよ」

少女は首を横に振る。

「あんたいつまでもサボってたら、もっと怒られるわよ」
「…まいったな」
「じゃあね、ご飯おいしかった。ありがとう」

登ってきたはしごを降りようとする少女を引き止めて、少年は大きな袋を渡した。

「さっき厨房から日持ちしそうな食いもんと水、くすねてきたんだ」
「…ありがと。助かる」

小さくさよならを言い合って、再び少女ははしごを降り始めた。


ガンッ!!

頭上で音がし、驚いて上を見れば少年が柵の隙間から顔を覗かせ、大きく叫んだ。

「またっ…!
また会えるかな………!!!」

「・・・・」
「・・・・」
「海は広くて残酷だけど……」

「私たちの夢を叶えてくれるわ!」

二人はまた笑い合い、少女は客船を後にした。
お互いの名も知らない人間との、再会を夢見ながら。





10年後に二人のこの夢は叶うことになる。

それぞれの夢を叶えるための自由を手にして。







08.12.05
サンジがまだゼフと出会う前、客船で働いていた頃。
ナミがココヤシ村を襲われ、海に出始めた頃。

って設定です。
この頃サンジはまだ自分の夢を信じてくれる人に出会っていなくて、ナミは1億なんて大金稼げるかまだ不安に思っている時ですよね。
そんな時期にもしもこの二人が出会っていたら凄く励ましあえたんじゃないかなーと思うのですよ。

うん。
まあ書き終わってから気づいたけど、アーロンに村襲われたのってサンジの船が沈んだのよりも1年遅いのね!

バラティエで二人が再開したときのお話なんかも考えたんですけど、このミス発覚したらなんか萎えてしまった。



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