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*サナゾ話。
直接描写はございませんが、サナゾが肉体関係もってる設定ですのでご注意願います。
現在1話〜6話までで、未完です。ガ ン バ リ マ ス



Voi che sapete #01



そうね、こいつは
剣一筋だとかなんとかぬかしつつ自分の欲望に大いに忠実。
大の酒のみだし、睡眠時間も半端ない。そのうえ性欲も結構すごいのだ。

「人間の三大欲求をコンスタントに満たしておいて心頭滅却なんて、ちゃんちゃらおかしいわね」
「…てめぇに言われたかねぇよ」
「私は別に煩悩を排除しようなんて思ってないもの」
「………」
「フフっ返す言葉もない?」
「うるせぇ」

有り得ない重さの単位が刻印されたトレーニング器具を黙々と振りながら、ゾロはぶっきらぼうに答えた。

「で、どーすんの?今日はする?」
「おまえは…そーゆーこと聞くんじゃねー」
「こっちにも色々都合があんのよ」
「都合て何だ…もっとムードとか考えたらどーだ」
「へぇあんたもムードとか考えたことあんのねぇ」
「…おれのことなんだと思ってやがる」
「単細胞の筋肉バカ?」
「てめ…っ!」
「大声ださないで。早く決めてよ、するのしないの」
「…んなこと今決めらんねーよ」
「んも、だから都合があるっつったでしょ」
「大体なぁ、都合ってなんだよ」
「サンジ君とか?」
「…っ!」

私はゾロとだけじゃなくて、サンジ君とも関係を持っている。つまり、体の。どちらとも別に恋人ってわけじゃない、セックスフレンドってやつだ。
愛がなくてもセックスなんてできるし(もちろん仲間としての愛は持ち合わせているけど)、一度覚えてしまった本能を消すことはどうやら難しいらしい。
世間一般的な意見は置いといて、狭く長い船の旅だ。年頃の男女が集ってこんなことがないなんて、そっちの方が疑わしいってもんよ。

ゾロは大きく息を吐き出すとバーベルをごとりと置いてこちらに向きなおした。

「おまえはおれとアイツ、どっちがいいんだ」
「…両方?」
「どんだけ淫乱だ!」
「別に否定はしないけど。てゆうか野暮なこと聞かないで」
「…今日はやめとく」

バタンと扉を荒々しく閉めて、男部屋へ消えていった。



「あ―…そりゃぁなんだ…焦がれてるんだな、あのマリモは」

結局今日はサンジ君と夜を過ごしたわけなんだけど、こいつはゾロと違って終わったらさっさと自室に帰ったりしない。腕枕しながらいつも髪を優しく撫でてくれたりして、つくづく女心をわかってると感心する。
これがゾロもサンジ君も両方必要な理由なのだ。激しくスパっと終わらせたいときと優しく愛された気になりたいとき。我が儘で傲慢な私の女心。

「焦がれてる?」
「そ。あいつはさ、ナミさんがゾロを求める理由が心じゃねーからそこが気に食わなかったんだよ。つまり、ナミさんに恋しちまってるってこと」

おれは勿論ナミさんに恋しまくってるけどねぇ~と、強く私を抱きしめた。

「恋ねぇー」
「恋なのさ」
「あんまりピンとこないわ」
「あれ、もしかして経験ない?」
「んーそういえば恋なんて、したことないかも」
「うっわー感激、ナミさんの初恋がおれだなんて」
「誰があんたに恋したって?」
「え、してないの?」
「…バカなんじゃない」

よくもこんな軽口が叩けるもんだなんて軽くあしらいながらも、サンジ君は恋を知っているのかしらなんてふと思ってしまった。と同時にさぞかし沢山知っているんだろうと思った。


私は恋なんてしたこともないし、されたこともない。はっきり言ってそんな暇はなかったし、心の余裕もなかった。自分だけ恋愛なんてするべきじゃないと思っていたし、そんな風に周りの男を見たことなんて一度もない。
島から島へと航海を続けながら私が近づく人間なんてただの金蔓であって、標的でしかなかったのだ。
私が生かされている理由はただ海図を描くために、そしてココヤシ村を救うという名目の金集めのため(結局それも奪われるシナリオであったが)、ただそれだけの価値の人間だったのよ。恋なんて概念がまず存在し得なかった。

それでも不本意ながらに女になってしまってからは、あえて体を武器に使うことが増えていった。どうやら私の体はひどく男の性欲をそそるらしいと気づいたのもこの頃だ。
つまり性交なんてのはただの手段の一つで。ロマンチックで甘いことなんてただのひとつもありゃぁしない。悲観的な心とは裏腹に体は欲望に忠実で、快楽(と金)を求めて男共に唾をつけることはもう生活の一部というか癖のようなもの(や、ゾロやサンジ君からはスッたりしないけどね)。


愛のあるセックスとは、どんなものかしら。

サンジ君の愛情表現はなんだか取って付けたような、彼にとっては挨拶の一環のような、いまいち胡散臭いものだし、ゾロに至っては一体どこに愛をこめているのやら。ま、あーゆー動物的なセックスも嫌いじゃないけど。


「ナミさんはおれに恋する予定はないの?」
「…恋してほしいの?」
「そりゃ勿論」
「あんたの場合、世界中の女に恋してもらいたいんじゃない」
「ハハ、そうなりゃ願ったり叶ったりだな」
「でもおれが欲しいのは、ナミさんだけだよ」
「…はいはい」
「ナミさぁん、おれ本気だぜ?」
「ホントに?」
「ナミさん今までのおれの愛情表現なんだと思ってたんだい?」
「社交辞令」
「うっわ、ショック…」
「…男のくせに愛を求めるのね」
「一方通行の恋愛と、通じ合ってるのとは随分違うよ?」
「セックスの話?」
「それもあるけど。なんつーか、世界が違って見えるのさ」
「…わからないわ」
「わからせてあげるよ」

うまいわね、とキスしてきた顔をひらりとよけてシャツを羽織れば、もっかいしねぇ、というお誘いを今日はもうお終いと断った。

「おやすみハニー」

独りきりになった女部屋で、私は恋についてちょっと考えてしまった。



08.11.28

タイトルは モーツァルト作曲の歌劇『フィガロの結婚』より
ケルビーノのアリア「Voi che sapete (ヴォイ ケ サペーテ)」
邦題「恋とはどんなものかしら」から。



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