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Voi che sapete #02



「おまえはナミが好きだろうな」
「…あ?」

深夜のキッチン。ナミさんとのスィートナイトを終えたおれは見張り番のロビンちゃんに何かあったかいもんをお持ちしようとキッチンに寄った。
するとゾロが酒瓶を傾けてひとりで一杯やってたもんで。ロビンちゃんにコーヒーを渡したあとに、おれも一杯付き合うことにした。

「何おまえ、酔ってんの?」
「酔ってねえ」
「酔っ払いは大抵そー言うんだよ」
「うるせ、話そらすな」
「はいはい。おれは好きよ?むしろ愛してんね」
「…そうか」
「んだよそれ。じゃあおまえに譲ってやるよとかそんな話?」
「ちげーよアホ」
「じゃあなんだよ。身を引いてボクに譲ってくださいってか?」
「…ちがッ!」
「ばーか、てめえはバレバレなんだよ。そんなにナミさんが好きなら言っちまえばいいだろ本人に」
「…んなこと言ったらあいつを困らすだけだろ」
「あ、やっぱ好きなんだ」
「……!!!?」

ゾロの顔が火をつけたみてーに真っ赤になる。…こいつ…

「…何おまえもしかして…」
「…………………なんだ」
「自覚なかったのか?」

一瞬目を丸くすると、片手で顔を覆い肘を突いて下向いちまった。

「…まじ?」
「…だまれマユゲ」
「うーわまじで?かぁわいいなぁ~マリモン!!」
「ぶった斬るぞ!!」

ヒュウと口笛を吹けば真っ赤なマリモが噴気しちまった。まぁ落ち着けよとたしなめる。

「で、なんでおまえの恋心がナミさんを困らすんだ?」
「恋心なんてねぇ」
「いい加減認めろよ。往生際わりぃな」
「悪くねぇ、恋でもねぇ」
「はいはい、じゃあ仮にっつー方向で。あ―なんだ、仮におまえが…」
「おい待て、仮って何だ」

この主調は無視。

「…おまえがナミさんに恋したら、なんで彼女を困らせることになんだ?」

観念したのか頭をガシガシかくと、瓶の残りの酒を一気に飲み干して話始める。

「あいつはんなこと望んでねーからだ」
「んなことって、気持ちの方ってことか?」
「…ああ」

んーなんだ、まあゾロの言うこともわかるけど。ナミさんは気持ちをいらないとは思ってねーと思うんだがなおれは。
そりゃそーだろ、人間てのぁ愛を欲する生き物だ。愛されたくねーなんてやつぁいねえだろ。
まぁ聡明な彼女のことだから…

「そりゃぁ…ちょっと違ぇんじゃね?」
「なにがだ」
「欲しがってないわけじゃねぇ、必要性を感じてねぇだけだ」

戸棚を開け、ワインボトルを投げ渡す。赤はないのかなんて贅沢言いやがるから嫌なら飲むなと瓶を取り上げようとすると、大人しくコルクを抜いて飲み始めた。

「あ―…それは結局、欲しくねぇってことじゃないのか」
「いらないのと必要ないのとは別さ」

わかるか?と大きめに煙を吐き出す。

「………」

何考えてんだかゾロは、いつも以上に据わった目つきでおれを見てきて

「おまえ………恋愛したことあるか?」
「…!!!???ぶぇッげはごほごほッッ…!!!」

えっ…何。何だそれ。きも…っ気持ちわりぃ何こいつ誰!?藻?ホントにマリモか?
あまりに気持ちわりぃ…いや、意外すぎる質問を投げかけられおれはむせかえっちまった。
涙目なってんぞと、気藻(気持ち悪い藻)に指摘される。
うるせぇ誰のせいだ。つうかやべ…顔にやける…

「おまえ…相当気持ち悪いぞ、顔」
「てっめーに言われたかねぇよ!!!!」

気藻に顔がキモイなんて言われちゃお終いだよな、怒鳴りながらタバコをマリモに押し付ければ、ぐわぁ!!とか変な声だして。いつもの蹴り合い殴り合い。


…一段落してボロボロになった服と髪を軽くなおしてから二人でひとまず落ち着いて元の席に腰かけた。

「…あーっと…なんだ…おれが恋愛したことあるかって話だったか」

面倒くせぇ、ネクタイはもう取っちまうか

「……」

ゾロは何も言わずにワイン瓶を傾けている。こいつは否定も肯定もできねーのか。
…いや嘘、知ってる。このマリモはしてほしい事っつーの?つまり願望だな。
それを人に伝えらんねえんだよ。…まぁおれは基本的に優しいし大人だから?あえてそこはツッコマねーで話してやるか。


…とは言うものの。おれは恋愛をしたことがあるのだろうか。
いや、身もとろけちまうようなスウィートな経験なら山ほどあんだけどよ。
環境が環境だったからな、麗しいレディは毎日店にやってきてくれるし、こっそりと子でんでん虫の番号を握らされる事もザラにあった。

大抵がセクシーなお姉様やマダム。それなりに楽しかったし、女性の扱いや歯も 浮くセリフを覚えたのもこんな生活の中から。本気で惚れたと感じた時もあった が、所詮それはまやかしであって、虚像の恋だったように思う。おれにとっても 、相手にとっても。
まぁつまりは、一夜限りの関係。


愛のあるセックスとは、どんなもんなのか。

その前後の甘い空気を恋愛だと思ってたが。それはどうやらひどい錯覚だったらしい、と最近思う。
ナミさんに、心が通じ合ってるのとそうじゃないのは随分違う、なんて知ったようなこと言っちまったが…おれも心が通じ合ってた経験なんてねーのかもな。

「…ねー気がすんな、二人が思い合ってることを恋愛と呼ぶならば」
「…おまえバカだな」
「あ?喧嘩売ってんのか」
「ちげーよ。…ナミが、心を求めてないってのをおまえが否定しなけりゃ、おれは今頃んなこと考えんの辞めてたぞ」
「……?」
「おまえはナミのこと好きなんだろ」
「ん?ああ…」
「んで、まだ恋愛じゃねんだろ」
「恋愛つのが両思いっつー仮定ならな」
「…言ってみりゃおれ達ゃライバルだ」
「ラ…ッ」

驚いた。おれは今言われるまでゾロが恋敵だっつー自覚がなかった。別に見下してるわけじゃねーぜ?ただ本当に自覚がなかったんだ。
普通自分が好きなレディを他の野郎も好きだと言ったら、多少なりとも面白くはない気分になるよな。自覚した今も、そんな気持ちはない。

ナミさんがおれを好きになってくれればいいとは思うが、おれだけのもんになって欲しいとは思わねぇ。

男部屋に戻りハンモックに横になってもおれは眠れずに、恋についてちょっと考えてしまった。



08.11.30


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