Voi che sapete #06
水みてぇだな酒が。
こんな日はとっとと酔っちまいたいのに、いつも以上に体がアルコールに反応しない。
ナミと飲んだ後もおれは場所をキッチンに移して一人黙々と酒をあおっていた。
考え事はそもそも嫌いなんだ。性に合わねえ。
だが最近は気が付けばぐるぐるとナミの顔とコックの顔が頭ん中を回っている。
ずっと引っかかっていた、なにか胸につかえてるもの。
ナミから衝撃の告白、つまり、コックとも寝た宣言をされて以来、もやもやとした何かがへばり付いていて離れない。
「…ったく、なんなんだよ…これぁ…」
「恋わずらい、とか?」
目をまるくした。頬杖をしたまま固まっちまった。
いつの間にか目の前にロビンが座っている。
…また気配に気づかないとは、本当どうかしちまってんな、おれ。
「冷たいお水を一杯もらいに来たのよ」
「…聞いてねぇ」
「あらそう?でも顔に書いてあるわよ、なんでお前がここにいるんだ」
「…!」
ロビンはクスクス笑いながら自分も頬杖をついて、おれに目線を合わせてくる。
まるであやされてるガキだ。
まぁあながち間違いでもねーか。
あーっと…さっきなんつった…この女は
「恋わずらい…?」
「意外と反応鈍いわね」
「…ほっとけ」
「あなたは航海士さんが好きなのね」
…なんだってんだいきなり。
いや、いきなり、じゃねえのか?話の流れからして普通か…
しどろもどろしていると当たった?なんて、またクスクスと軽く笑った。
「なんでわかった」
「見ていればわかるわ」
…おれはそんなに分かりやすいのか…軽く落ち込んでいるとそれを見透かしているのか否か、
「だけどコックさんも航海士さんが好きね」
と、軽いことみたいな口調で言う。
不思議な女だ。ロビンの深い瞳に映し出されるおれの姿は呪いにかかった胡散臭い信者のようだ。
…たまには他人の話を聞くのもいいか、なんつー気になっちまった。本当になんかの術をかけられちまったのかもな。
「そうね…あなたとコックさんは同じ目をしているわ。同じ目で航海士さんを見ている。あまりに熱くて情熱的な、恋の目線よ」
「…そう、見えるのか」
「ええ。少なくとも私には。自覚、ない?」
「いや、ないことも…ない…」
「ふふ、照れなくてもいいのよ。すごく素敵なことだわ」
「・・・」
「…あなた達二人の目は、そうね・・・心を求めているのね、セクシャルなことだけじゃなくて」
「どこまでわかってんだお前は…」
「あくまで私の見解よ」
席を立ってコップに水を注ぐ。なんとなくその後ろ姿をぼんやり眺めた。
「きっと航海士さんも同じ気持ちだわ」
「どっちにだ」
「おそらく…」
どっちも?と、振り返って笑ってみせた。
「おれにはそんな風に見えないが…」
「きっと彼女もわかっていないのよ、自分の気持ちを」
「そう…なのか?」
「さぁ?どうかしら」
悪戯っぽく微笑んで。そのくらい自分で考えろってか?
「それよりも気になるのだけど…」
「…なんだ」
「コックさんも同じ目で見ているわ、あなたに対しても」
「…あ?」
何を言ってんだ?いや…これは…
「コックが、おれに…?」
「ええ。もう一つ、言っても?」
「いや…!いい…」
先刻のナミの言葉が蘇る。
『いいってことじゃない?今の関係性が』
おれとコックはつくづく対照的だ。
対照的だからこそこんなにも反発し合い、しかしなぜだか引かれ合うもんがある。
いや、別に気色の悪い意味じゃぁねえ。なんつうか、必要性の問題だ。
相性は悪いが、必要なんだ、多分お互いに。
おれにとってナミは、こんな事言うのもアレだが、つまり初めて気持ちを持った女だ。
その初めて、で、この狂った三角関係。こんなもんすぐに抜け出したいと思うのが普通なんだろうが、おれの場合は…なんだ、こうじゃないといけねぇ。
今のナミに対する感情が芽生えたのがこの関係性になってからだ。つまり、おれとナミの間にコックの存在が生まれてから。だからなのか、今はコックがこの3人の輪から抜けたら、バランスを失う気がする。
三人でちょうどいい。三人じゃなきゃ、ダメなんだ。
ずっと気づいていた。心のどこかでわかっていたんだ。
だがストップをかけていた、誰が決めたかわからねぇ常識に捕らわれて。
狂ってるか?でもこれがおれにとっての恋愛の形、だ。
そうわかったら猛烈に、あの二人に会いたくなったんだ。
08.12.28
私が書くゾロはちょっとアホだ。
ラストスパートです、次で終わるかしら?。
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