Voi che sapete #05
ハンモックがやけに揺れる。
夜の海は、こんなに波があるもんだったか。
ゾロと別れた後もずっとおれは眠らずにただただ天井を見つめていた。
頭に浮かぶのは、ナミさんの顔と、ゾロの顔。
おれぁナミさんが好きだ。心底惚れちまってる。
だから初めてナミさんを抱いたときはめちゃくちゃ嬉しかったんだよ。初めてセックスをしたガキみてーに、なんつーか、感動したんだ。
「ねぇサンジ君」
「んー?」
初めて体を重ねた後、ナミさんはおれの腕の中にいるのにどこか違うところを見ているような遠い目をして、遠慮がちに、でもしっかりした口調で言った。
「私さぁ」
「うん」
「ゾロともするの、セックス」
「・・・」
バラティエで彼女を一目見たときから、ずっと目で追っている。四六時中君を見てるんだよおれぁ。
だから、知ってた。気づいてた。
ナミさんとゾロがそういう関係だっつーのは。
「うん、知ってる」
「やだ、知ってたの」
「まあね」
「…嫌じゃないの?」
「おれはさ、ナミさん。君が好きなんだよ?」
「…うん」
「君が嫌じゃないんなら、おれは全然構わないさ」
大人ぶって、余裕ぶって、笑う。ちっともよくなんてねーよ、ホントは。
だけど。
ゾロがナミさんを見る目線はあまりに熱くて、情熱的で。
ナミさんがゾロを見る目も、それと同じなもんだから。
おれぁてっきり「デキてる」んだとばっか思ってた。体だけじゃなくて心も。
だからナミさんがおれの気持ちに答えてくれた時は(つっても体の、だけど)
そりゃヤバいくらい嬉しかったんだよ。
デキてたわけじゃねーんだって。
と同時に、不思議に思った。
おれが見るに、あの二人はあきらかに思い合ってるのに、なんでだって。
「愛してるよ、何があっても」
優しく髪にキスを。
その時気づいちまった。ふと見たナミさんの顔が、困ってるような悲しいような、微妙な表情になったのを。
そう気づけばなるほど彼女はさ、おれが愛の言葉を放つたびにその顔をするんだよ。
微々たる変化だけどおれには分かる。これは、恐怖と躊躇の顔。
おれぁナミさんのお姉様から彼女の過去を聞いちまったからな、その根源のだいたいの察しがつく。
愛する人を失う恐怖と、人を愛することへの躊躇。
長い間ナミさんは自分の気持ちを押し殺してきたんだろうな。自分は恋なんてしちゃいけねーと思いこんじまってるんだ。
それが分かればゾロの気持ちもだいたいわかるってもんだ。
あのマリモはよ、単純で不器用だからな。そんなナミさんの恐怖と躊躇からくる態度を、真に受けちまってんだ。
努めてクールに振る舞う彼女の姿が、彼女の真意だってな。
はぁ…つくづくアホだなあのクソ緑は。ナミさんがおれと寝たのだって、恐らくお前を試すためだろ。悲しいかなおれぁよ、こういう系のカンはすこぶるいいんだ。
そんなことを考えていたら、ゾロを哀れんでいる自分がいることに気づいた。
あいつは哀れまれることなんて望んでねーだろうが、考えずにはいられねーんだ。
今さっきライバル宣言された人間が言うことじゃねーけどよ、なんつうか…そんな不器用なゾロを愛おしく思う。
や、別にいやらしい意味じゃねーよ?
単純に人間としてだな、愛おしいんだよ。
どうにかしてあの二人が報われねえかなんて考えちまってる。
まぁおれがこの輪から抜ければ丸く収まる話だなんて言うなよ。何度も言ってるがおれはナミさんを愛してるんだ。戦線離脱する気は、さらさらねぇ。
とか言いながら、だ。
あの二人がうまくいけばいいと思う。かと言ってナミさんをゾロに譲る気もねえ。
狂ってるか?
まぁ、恋愛とは時として矛盾するもんなのさ。
何が正常で何が異常かなんて、そもそもそんな概念はねーんだ。
三人で愛し愛され合ってもいいだろう?
っと驚いたな。三人で、なんて、こんな考え方もあったんだな。自分で思い至っといて驚いてちゃぁ世話ねーや。
つまりおれは。
理屈とかモラルとかそういうの全部抜きに、あの二人を欲している。一人は男だけど。あ―…なんだ、堅いこと言うなよ。
同じレディを愛する者同士の敬意と愛情をこめようじゃねえか。
三人でひとつ。三人いてようやく成立する恋愛。
そんなのだってオツだろう?
そうわかったら猛烈に、あの二人に会いたくなったんだ。
08.12.21
サンジさん、何いってんですかね。
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